本の紹介②『ストーカー病 -歪んだ妄想の暴走は止まらない-』
私はDV夫から何年もの間、罵声を浴びてきました。
家の中にいると、絶えず夫の怒鳴り声が聞こえていました。
それは、どんどんエスカレートしていき、最後は濁流のようになって流れをとめることができなくなりました。
「殺す」だの「水に沈める」というような暴言は日常茶飯事になっていました。
今でもたまに、うとうとしている時など、遠くから怒鳴りながら暴言を吐いているDV夫の声が私には聞こえてしまいます。
私がDV夫から身を隠すにあたり、その後にDV夫からの追跡をどう回避するかということは、大きな問題でした。
だって、今度会った時には殺されると思うから。
そしてDV避難後、追跡を受けた時からDV夫の呼び名が変わりました。
それが、「ストーカー」。
『ストーカー病 -歪んだ妄想の暴走は止まらない-』 福井裕輝 著
「恨みの中毒症状」の治療なしに、被害者は減らせない
筆者は、性犯罪者やストーカー行為の診療に携わっている司法精神科医。
警察が介入したストーカー等の案件のデータ解析、ストーカー凶悪犯との接見、被害者の問診に携わる中で、ストーカー凶悪犯を始めとする加害者像には、共通性があるという。
それは、年齢や性別、職業や社会的な地位はそれぞれであっても、精神の病理や心の状態は類似しているという。
揺るぎなき被害者感情、激しい思い込み、愛憎の入り混じった執拗さ飛躍した衝動性であり、もはや一つの病気とみなせると。
<ストーカー病の分類>
① 執着型
元恋人や配偶者との密接な関係が壊れた時にストーカー化する。
最初は壊れた関係を修復したい、話し合いたいなどといった要求から始まるが、結果的に相手への復讐に目的が変わる。
傷害事件や殺人事件に発展することが多い。
執着型の因子: 自己愛性パーソナリティ障害。
自分は優れていてすばらしく、特別な存在でなければならないと病的に思っている。
“他者に対して過度に尊大な態度”、”特別扱いを求める”、”相手の気持ちに無頓着”などの特
徴があり、こうした欲求が満たされないと過剰なまでの怒りを抱く。
遺伝的な要因もあるが、乳幼児期の早期に親との関係を通してセキュアベース(心の安全基地)を十分築けなかったことによる。
セキュアベースを十分育めていないと、その内面はとても脆弱で自己不信を抱えながら生きて行くことになる。
自分は特別な存在であると思い続けるのは、こうした自己否定感や自己嫌悪感から自分を守り、不安を緩和するための手段。
ハインツ・コフートは『自己愛と自己愛憤怒に関する考察』という論文の中で、「過剰な特別意識、優越感は、他者を自分の下位に置いて批判したり、罵倒したりすることによって、保たれるものである。」と論じている。
彼らはストーカー行為を繰り返す加害者側であるにもかかわらず、非常に被害者意識が強い。
「自分がこんなことをするのは、相手のせいだ」と自分の行為を正当化し、身勝手な恨みを募らせる。
彼らにとって相手は写し鏡のような存在。相手に写した自分自身を愛し、相手と自分を同一視することで脆く崩れやすい自己愛を支えている。
恨みを募らせながら、「相手はまだ自分のことを愛しているはず」とすがる。写し鏡である相手を失うことは、自分のすべてを失うに等しいからだ。
追えば追うほど求めるものは遠のいていく。そんな相手に苛立ち、怒りを募らせ、それが臨界点に達した時に事件は起こる。
② 一方型
それ程密接な関係ではなかった相手や、ほとんど知らない相手に対するもの。
恐怖を与えたい、混乱させたいという欲求。
アイドルやタレントへの一方的な恋愛感情から始まるストーカー行為。
一方型の因子: 統合失調症、妄想性障害。
③ 求愛型
ちょっとした知り合い程度の関係の相手に対するもの。
相手と相思相愛の関係を築きたいという一方的な意図から生じるストーカー行為。
求愛型の因子: 発達障害傾向。
特徴は対人関係の苦手さ、その一方で好きなことには熱中する。
すなわち、自分の感情の表現が出来ず、相手の気持ちを読み取るのも苦手。異性とのコミュニケーションに未熟さを生じ、特別な関係になっていると思い込んで熱中し、相手に拒絶されても理解が出来ない。
④ 破壊型
相手の立場や気持ちは一切関係なく、自分の感情や欲求を一方的に押しつける行為。
自分の性的欲求を満たすための対象に、ストーカー行為を行う。
破壊型の因子: 反社会性パーソナリティ障害。
他人の権利の無視、侵害、人をだます傾向、良心の呵責の欠如が特徴。
<被害者になりやすいタイプ>
・ 母性的、同情や共感をしやすく、面倒見がよかったり尽くすタイプ。
・ 頼み事や要求を断れず、相手をつい受容してしまう
・ 生育過程で愛着の問題を抱えており、罪の意識を持ちやすく、自己評価が低い
<狙われやすい人>
・ 出会い系サイトなどのSNSを介し、安易に交際をスタートさせる人
<ストーカーから身を守る方法>
・ 相手からの付きまといに対し、被害者であるという意識をしっかり持つ。
・ 別れた後は、きっぱりと決別の態度をとる
・ 相手に自分の意思を冷静に伝えること(決別の意、付きまといは迷惑で止めて欲しい)
・ 第三者を巻き込まない
⇒ 以上を講じても事態が深刻化するようなら、転居をして身を隠す。
役所に住所の閲覧制限を申し出るなど個人情報を保護する。
<感想>
・ これまで自己愛性パーソナリティ障害について、あまり害のある病気だと思っていなかった。
しかし、この本を読むことで、私が理解しておくべき重大な病気だったと知った。
・ 自己愛性パーソナリティ障害は、相手を批判したり罵倒したりして、自己の特別意識や優越感を満たしていると知り、DV夫もそのような状態であったのだろうと思った。
・ DV夫は死んでも自分の落ち度は認めないのであろうと確信に至った。 また、DV避難で突然姿を消したため、よりDV夫がストーカー化しやすい状況になっていると推測する。
・ ストーカー化しやすい要素として、離別後の相手のグリーフワーク(悲嘆作業)を阻害することがあげられていた。別れた後にきっぱりと決別の態度を示さないことは、相手のグリーフワークを阻害するのだと言う。
<最後に>
私にとって、非常に有益な本でした。
自己愛性パーソナリティ障害の理解を深めることで、DV夫の状態が理解出来ました。
やっとやっとわかったという気持ちで、たどり着いた思いです。
DVに悩んでいる方や、DV避難を密かに考えている方、読んでみてください。
DV避難前に出逢いたかった本です。
令和2年5月9日 白雪
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